《雨降り》〜さいさんに贈るほのかな、そして永遠のラブストーリー〜

 

斉木 淳…16歳・男。

西野マユ…15歳・女。

岡田絵美…16歳・女。斉木と同じ中学。マユのクラスメート。

喫茶店のマスター…40歳・男。

アナウンサー(A選択のみ登場)

 

○ 6月

淳「……雨、やまないな。梅雨だから仕方ないけど」

淳M「学校帰り…僕はいつものようにバイトに向かっていた」

マユ「……(ため息)」

淳「ん……? あ、うちの高校の制服だ」

マユ「……あ、斉木くん」

淳「えっ?」

マユ「今、帰り? っていうかこっちだったっけ? 家の方向」

淳「いや……違うけど」

マユ「私バス待ってるんだけどさ……この雨で遅れてるみたいなの」

淳「ああ、渋滞はまる時間だしな」

マユ「今、急いでる? 良かったら暇潰し付き合って」

淳「……ゴメン、誰だったっけ。制服でうちと同じなのはわかるんだけど」

マユ「やだあ、忘れちゃったの? 入学式の時、声かけてくれたじゃない」

淳「え?」

マユ「教室がわからなかった私を、連れて行ってくれたでしょ」

淳「あ!!」

マユ「やっと思い出してくれた。西野マユだよ」

淳「ゴメン。クラス違うから……」

マユ「そうだったね」

淳「……4月以来か」

マユ「私は、ずっと斉木君のこと見てたよ。あの日から、ずっとね」

 

淳M「結局僕はバイトの時間ぎりぎりまで、彼女の話に付き合った」

 

絵美「淳君」

淳「あ、岡田。久し振り」

絵美「それにしても淳君バイト好きだよね。中学の時は新聞配達だったし」

淳「……好きなんじゃないよ。手っ取り早かったからやってただけ」

絵美「あ、ごめん」

淳「まあ、いいけどさ。……で、何になさいますか?」

絵美「アイスミルクティー。シロップは要らないから」

淳「かしこまりました」

絵美「……淳君、西野さんって知ってる?」

淳「ああ、知ってるよ。さっき会ったし…入学式の時にちょっと話をね」

絵美「彼女さ、私のクラスメートなのよね」

淳「え、そうなのか……。あ、ゴメン。仕事戻らないと」

絵美「わかった。じゃあ頑張ってね」

 

マスター「……お前、女にもてるなあ」

淳「マスター! そんなんじゃないですよ」

マスター「んなこと言ってるが、さっきお前……女の子と立ち話してたじゃないか」

淳「え?」

マスター「商店街のバス停だよ」

淳「……見てたんですか?」

マスター「いつもは余裕でここに来るお前が、今日に限ってぎりぎりで
 駆け込んで来ただろう」

淳「う……」

マスター「いいなあ、若いもんは」

淳「そういうマスターは、いくつなんですか?」

マスター「今年で40だ」

淳「……あ、しゃべってないでミルクティー作らなきゃ」

マスター「……お前ごまかしたな?」

淳「それより、またお客様ですよ」

マスター「おう、いらっしゃいませ!」

淳「いらっしゃいませ」

 

淳M「僕がアルバイトを始めたのは中学に上がってからだった。
 新聞配達の最中にあの岡田絵美と良く出くわしたものだ。
 彼女は塾通いの途中であることが多かった。
 一年の時だけ組が同じで、後はクラブが同じだったことから
 会えば言葉を交わす間柄になっている」

 

淳「お待たせしました」

絵美「あ、ありがとう」

淳「では失礼しま……」

絵美「さっきのマユのことなんだけどさ」

淳「……うん?」

絵美「入学式の後に男の子に親切にしてもらったって言っててね。
 よく聞いたら淳君のことだってわかったから、名前教えたのよ」

淳「ああ、それでか……、僕は自分で名前言った覚えないから」

絵美「会うことがあったら自分から声かけるって言ってたからね」

淳「そうか……分かった。じゃあね」

絵美「うん」

 

淳M「相手が女の子だったからとか、そういう訳じゃなかった。
 ただ、困った人を見たら放っとけないだけの話で。
 でもそのお節介で一人でも喜んでくれるなら……いいこと
 したんだなって思えて、嬉しかった」

 

(約十秒、沈黙)

 

○ 7月

淳「あ……また雨だなあ。やっと梅雨が明けたと思ったのに」

マユ「斉木君」

淳「あ、西野さん」

マユ「……今日、急に降り出したから傘持ってないんじゃないかと思って」

淳「うん。持ってないよ……困ったなあ」

マユ「良かった。これでお返し出来そう」

淳「え?」

マユ「……はい。ビニール傘で悪いけど、これならなかなか会えなくっても
 気にしないで持ってられるでしょ」

淳「あ……ありがとう」

マユ「斉木君のおかげでね、私……初日からこの学校好きになったの」

淳「西……」

マユ「クラスに友達も出来たし、だから……お礼したくて」

淳「…………」

マユ「じゃあね!」

 

淳M「空は、いつ雨がやむかも分からないほどどんよりしていたけど
 僕の心は…彼女の言葉のおかげで雨上がりみたいにすっきりと晴れ渡っていた」

 

(約十秒、沈黙)

 

○ 8月

マユ「こんにちは」

マスター「いらっしゃいませ!」

淳「いらっしゃ……あ」

マユ「絵美に聞いて来ちゃった。斉木君がここでバイトしてるって」

淳「……すみません、マスター」

マスター「おう、店の隅っこで休憩しろ」

マユ「あ、ゴメン…邪魔だった?」

淳「いや、いいよ。あっちに行こう」

 

マユ「日本の夏って、ホントに暑いよね」

淳「湿度があるからね。外国の人はいやがるって話良く聞くよ」

マユ「私、外国で生まれたの。10歳になるまで欧州にいたから
 やっぱりこっちの夏って苦手。未だに慣れなくて」

淳「あ、そうなんだ。それじゃ大変だよね…夏バテとかしてない?」

マユ「食欲ないの。でも体とかは全然だるくないんだけど」

淳「でもそれって良くないんだよ。少しでも何か食べなきゃ……」

マスター「何にするかね? そこのお二人さん」

マユ「……お勧めありますか?」

淳「テレビの音でマスターの気配に気づかなかったよ…」

マユ「こっちの喫茶店ってBGMとかが、結構うるさいからね…私も気がつかなかった」

マスター「うーん。食欲ないのか……炭水化物がいいと思うが、ペペロンチーノか
 バジリコスパゲティは?」

淳「うちにそんなメニューありましたっけ」

マスター「習得中だ」

淳「……未完成のメニュー出していいんですか」

マユ「ふふふ……っ、面白い。バジリコスパゲティが好きなので、それお願いします」

淳「……僕はナポリタン……」

マスター「じゃあお前からだけ金取るぞ」

淳「何でですか!」

マスター「習得中のものなら、無料だ」

淳「……じゃあ僕もバジリコスパゲティで」

 

(約十秒、沈黙)

 

○ 9月

淳「……また、雨か。……ん?」

 

絵美「結局行かざるを得ないんでしょう? どうして言わないのよ」

マユ「絵美になんか分からない……私の気持ちは」

絵美「ええ、分からないわよ! だからこそ中途半端な態度は取って欲しくないの!」

マユ「私が彼にどう接しようと自由……斉木君……!」

絵美「……!!」

淳「あ……」

マユ「……!」(駆け出す)

淳「西野さ……」

絵美「放っておきなさいよ」

淳「……岡田」

 

絵美「いずれここからいなくなるのに、相手の気持ちなんて考えずに
 ただ引っ掻き回すような真似しかしない子なんか……!」

淳「……ここからいなくなるって?」

絵美「やっぱり何も聞かされてないのね。……ねえ淳君、あの子が
 高校入ってからずっと家に一人で住んでるって知ってる?」

淳「いや……知らないよ」

絵美「ご両親がね、アメリカに行ってるの。彼女も連れて行くつもりだった
 らしいんだけど……この学校に通うのが楽しくなったからって言って
 誘いを拒み続けてるのよ」

淳「…………」

絵美「でも、結局子供は親のものでしょ。ましてや未成年だし……彼女が
 親元に行くのは時間の問題だわ」

 

(約十秒、沈黙)

 

○ 10月

淳「なんでわざわざ…設営したテントを講堂に仕舞うんだろう」

マユ「体育祭が今日の雨で順延になったからでしょ? 来週に」

淳「……西野」

マユ「いくらなんでも、一週間もそのまんまってわけにいかないじゃない」

淳「それはそうだけどさ……」

マユ「たたむの手伝ってくれる?」

淳「……うん」

マユ「生徒の保護者もさ、ほとんどが休日しか応援に来れないし」

淳「……保護者って言えば西野の両親、アメリカにいるんだって?」

マユ「……うん。だから体育祭がどんなに順延したって……来てくれは
 しないんだけどね」

淳「……そうか」

 

淳M「淋しそうな彼女の言葉を聞いて、僕はそれ以上何も聞くことが出来なかった」

 

(約十秒、沈黙)

 

○ 11月

絵美「淳君。そっちのクラスの準備は終わったの?」

淳「ああ、うん。ありがちな模擬店だから……教室の飾りつけだけ」

絵美「いいなあ。うちなんて誰が言い出したのか知らないけどお化け屋敷よ」

淳「……ベタだなあ」(苦笑)

絵美「ところでマユ知らない?」

淳「……いや、見てないよ今日は」

絵美「……そう。じゃあ私職員室行くから」

淳「じゃあね」

 

(マユの歌声が聞こえてくる)

淳「……ん?」

(マユ、続きを歌っている)

淳「……西野」

マユ「……!」

淳「岡田が探して……」

マユ「(泣き出す)」

淳「西野……」

マユ「……斉木……くん」

淳「どうしたんだ?」

絵美「マユ! ここで何してるのよ」

マユ「……」

淳「岡田……」

絵美「みんな一生懸命やってるのよ。一人だけぼうっとしてるつもり?」

マユ「……ごめんなさい」

 

A・淳「…………西野」

B・淳「岡田、そこまで言うことないじゃないか」

C・淳「西野、教室に戻ったほうがいいんじゃないのか?」