KIMI−HANA

ゴウ…20歳。五年前に両親(実の父と義理の母)を火事で亡くす。

杏樹…15〜16歳。謎の少女。

亡父の友人…48歳。ゴウの亡父の友人。

エピローグ(10年後)登場人物

ゴウの妻

ゴウの娘・あんじゅ


○ 家の跡地(五月)

ゴウM「俺がその町に帰ってきたのは、実に5年ぶりのことだった」

ゴウ「…おめー、何してんだ。んなトコで」

杏樹「…種を植えてるの」

ゴウ「種だぁ!? …ここは前、俺の家だったんだぜ…植えんのは
 構わねーけど、それ何の種なんだ?」

杏樹「ヒマワリよ。お母さんの好きな花なの」

ゴウ「…ふうん。そういや俺のお袋…親父が連れて来たあの人も
 ヒマワリが好きだったな。でもよ、なんでココなんだ?」

杏樹「だって、ここには何もなくて淋しいから」

ゴウ「…そりゃそーだな」

杏樹「でも…すごく広いから、時間かかっちゃう…」

ゴウ「……だーっ、しょうがねえな。手伝ってやるよ! 種貸せ」

杏樹「……ありがとう(にっこり)」

ゴウ「そ、そーいや、おめー…名前なんてんだ?」

杏樹「…杏樹よ。あなたの名前は?」

ゴウ「俺か?俺は…ゴウだ」

杏樹「ありがとう、ゴウ」






ゴウM「日暮間近になって、ようやく更地(さらち)いっぱいに
 種を捲き終えた俺たちは額の汗をぬぐいながら立ち上がった」

ゴウ「げ、もうこんな時間か。あ、やべぇ…親父たちの墓参り忘れてた」

杏樹「…お父さん、いないの?」

ゴウ「親父もおふくろもここで焼け死んじまったんだ…五年前にな」

杏樹「…そうなの…」

ゴウ「…でもよ、おめーのおかげで殺風景な更地(さらち)が夏には
 一面の花畑だぜ。このまんまにしとくよりはいいって…な?」

杏樹「わたし…、良いことをしたの?」

ゴウ「おうよ、だから暗いカオすんな」

杏樹「…ふふっ、良かった」

ゴウ「じゃ、わりーけど、俺帰るぜ。休暇の最後にここに寄ったんだ。
 今日中に戻らねーと明日の仕事に間に合わねぇ。
 あ、わりぃ…送ってってやるぜ。家はどっちだ?」

杏樹「大丈夫、近くだから…心配してくれてありがとう」

ゴウ「そうか、んじゃーな」

杏樹「…ねえ、また会える?」

ゴウ「ヒマワリが満開のころに、また来らぁ」

杏樹「必ず来てね…待ってるから!」






ゴウM「そして一カ月後、夏期休暇の取れた俺は再び故郷を訪れた。
 様変わりしたであろうあの場所に向かう間、
 5年前のことを思い返しながら…。
 そして、たぶんまたあの場所で待っていてくれるだろう彼女に
 会えることが何よりの楽しみだった」

 

○ 家の跡地(六月)

ゴウ「…ちッ。いねーじゃねえかよ」

杏樹「どうしたの?」

ゴウ「…おあッ!!」

杏樹「うふふっ」

ゴウ「何だよ、おめー…おどかすんじゃねえ!!」

杏樹「別におどかしてないわよ。でも、どう? きれいにさいたでしょ?」

ゴウ「…ああ、見事って感じだな。すげーじゃん、おめー1人で世話したのか?」

杏樹「うん…でも芽が出れば、後は水やりだけだもの。大したことじゃなかったわ」

ゴウ「いや、すげーって。ありがとうな…杏樹」

杏樹「…これで帳消しになるかなぁ」

ゴウ「あん?帳消しって何だよ」

杏樹「…ううん、何でもないの。こっちのこと」

ゴウ「あ、そーだ。おめーに聞きてーことがある」

杏樹「…何?」

ゴウ「ヒマワリ、何本かくれねー? 親父たちの墓にそなえてーんだ」

杏樹「…いいけど。ヒマワリって墓前にそなえてもいいの?」

ゴウ「知らねーよ。要は気持ちだろ?」

杏樹「…ふふふっ、そうよね。気持ちよね…いいわよ?
 好きなだけ持って行って。これだけたくさんあるんだもの」

ゴウ「わりぃな。あ、ハサミねーか?
 さすがに手でへし折るのはカワイソーだろ?」

杏樹「ここにはないけど、確か向こうの墓地にあったわ」

ゴウ「そうか、んじゃ…ちょっと取ってくらあ」

杏樹「…あ…」

ゴウ「俺が戻ってくんまで、そこにいろよ」

杏樹「うん…待ってるね」






○ 墓地

ゴウM「住宅地とは反対側にある墓地についた俺は、とりあえず
 両親の墓を探した。
 実の母の墓碑(ぼひ)の隣に並ぶ、父と二人目の母の墓を程なく
 発見したが…その横に比較的新しい墓が建てられていることに
 気付いた。が、その名を読もうとした時…
 俺は背後になつかしい声を聞いた」

(SE・風の音)

亡父の友人「ゴウじゃないか」

ゴウ「おっさん、ひさしぶりだな。昔に比べて、年取ったな」

亡父の友人「そりゃあ、もうおまえ20だろうが? 俺だって年も取るさ…
 そうだな、もう学校出たのか」

ゴウ「まあな。実技じゃトップだったぜ」

亡父の友人「そうか、頼もしいな。親父さんも喜んでるだろう」

ゴウ「へへッ…ところでおっさん、ハサミどこにある?」

亡父の友人「さっき使ったんでな。…ところであの土地にヒマワリ植えたの、
 おまえか?」

ゴウ「いんや。俺じゃねーぜ…なんか近所に住んでるらしい子が種まいてた」

亡父の友人「…変わった子だな」

ゴウ「まーな。でもおかげでさむざむとした風景が
 一変(いっぺん)したじゃねーか」

亡父の友人「そうだな」

ゴウ「だろ?じゃ、このハサミ借りてくぜ」

亡父の友人「あ、おい。おまえに一つ伝えておこうと思うことがあってな」

ゴウ「何だよ」

亡父の友人「…あの火事について、一つ新しい情報が手に入ったんだ」

ゴウ「………」

亡父の友人「…おまえの二人目の母親、前の嫁ぎ先に子供が1人
 いたんだが病弱でな。ずっと病院にいたらしいんだが…
 実は火事のあった日、病院を抜け出してたそうだ」

ゴウ「…で?」

亡父の友人「火事の直前に、高台へ向かうねまき姿の子供が目撃されてる。
 …金色の髪の女の子で、年格好も情報と合致するそうだ」

ゴウ「…………」

亡父の友人「あの火事が放火だったことは警察も突き止めてる。
 ただ、その子は2年前に亡くなっていて…そこにある墓がそうだ。
 だから、真相は結局闇の中ってことだが」

ゴウM「俺は、まさかと思って墓を振り返った。
 …そこに、きざまれていたのは」

ゴウ「…あ…」

亡父の友人「あ、おい…ゴウ!」

ゴウM「俺は、無我夢中で駆け出していた」

(SE・やや強い風の音、もしくは遠雷)





○ 家の跡地

杏樹「…ゴウ! ………どうしたの?」

ゴウM「戻ってきた俺を、嬉しそうな笑顔で迎える杏樹」

ゴウ「…おめー、何者だ?」

杏樹「……」

ゴウM「彼女の表情がその言葉に一変する。
 笑顔が消え、泣きそうな顔になった」

杏樹「…ごめんね…」

ゴウM「杏樹は身をひるがえして、ヒマワリの中へ駆けて行った。
 緑の葉が、彼女をおおいかくす」

ゴウ「…!! おい、待てよ! ……待てって言ってんだろ!!
 誰もおめーにどっかいっちまえとかいってねーじゃねーか! 
 …杏樹!!」

杏樹「…………」

ゴウM「俺はただ、彼女の正体を確かめたいだけだった」

ゴウ「何で逃げんだ…おめー、違うんだろ?俺の二番目のおふくろが残して
きた娘とかじゃねーよな? ……何で、何も言わねーんだよ!!」

ゴウM「苛立った俺の叫びに、杏樹は、細い肩をびくっと揺らした後、
 立ち止まりゆっくりと俺に振り返る。
 そして…大きな目から透明な雫(しずく)をこぼした。
 次から次へ、せきが切れたようにこぼれ落ちる水晶」

杏樹「…ごめんなさい…」(泣いている)

ゴウM「謝る言葉が、そこで微妙に変わっていた」

ゴウ「杏樹…」

杏樹「…ママを取られたのが、悔しかったの。ごめんなさい…」

ゴウ「………」

杏樹「…ゴウ。あなたから、大事なもの…全部奪ってごめんなさい」

ゴウ「…ったりめーだ!この上、おめーまでいなくなっちまったら承知しねー
からな!!親父やお袋だけならともかく、おめーまで…!」

ゴウM「父と母だけならともかく、彼女までもがもうこの世の者ではないなど…
 絶対に認めたくない。もう誰も、失いたくない…」

杏樹「…わたしは、ここにいるから」

ゴウ「杏樹…」

杏樹「…いつだって、ここにいるわ…」

ゴウM「そして俺の前で、彼女は静かに消えていった。
 …後には、他のヒマワリよりも小さい…
 そこにいた彼女ほどの背丈のヒマワリが立っていた」












(ED流れる………………………ED終了後エピローグへ)









エピローグ






○ 家の跡地

ゴウM「彼女が消えてから、10年の歳月が流れた」

ゴウの妻「もうすっかり、この町の夏の定番になったわね。ヒマワリの迷路」

ゴウ「…そうだな」

ゴウの妻「あなたが4年前、急に元の家の周辺の…
 この大きな土地を買いたいって言った時は驚いたわ。
 でも…これがあなたなりの、ご両親への…とむらいなのね」

ゴウ「…ま、それだけじゃねえケドな。さてと…そろそろ行くか?」

ゴウの妻「そうね…あ、あの子はどうしたのかしら」

ゴウ「そこらへんで遊んでんだろ………おい! 
 じーちゃんばーちゃんの墓参り行くぞ! あんじゅ」

(SE・葉すれの音)

あんじゅ(子供)「……はあーい」

(SE・風の音)

ゴウM「子供を呼んでその場を去ろうとした時、
 俺は…懐かしい声を聞いた気がして振り返った」

杏樹「…また、きてね。ゴウ…わたし、ずっと…ここに…いるから…」

ゴウM「俺は静かに前を向き、先を行く妻と子供の後を歩き出しながら、
 背中を向けたまま…片手を高くあげて振った。
 彼女に…見えるように」





FIN

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オマケ(映画予告編風)

ゴウ「…杏樹!」

杏樹「ゴウ…あなたから大事なもの、全部奪ってごめんなさい」

ナレ「――――この夏、もっとも切ない恋が舞い降りる…“きみはな”。
 2002年7月7日、全国ロードショースタート」

(主題歌イントロかぶる)