神久保荘へようこそ 番外編 「愛しい子供達へ〜十五年目の遺言〜3」

 

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神久保壬久(かみくぼ みく) 女・十代でデビューした漫画家・25歳
数ヶ月前に出来ちゃった結婚。
橘 駒子(たちばな こまこ) 女・26歳。壬久の姉。
ラジオのパーソナリティ・元声優。
数ヶ月前に出来ちゃった結婚。
神久保敦也(かみくぼ あつや) 男・33歳。壬久の高校時代の担任
現在は神久保家の入婿兼アシ。
橘 天馬(たちばな てんま) 男・24歳。ラジオのパーソナリティ。
元駒子のおっかけ。現在は旦那。
江田 亨(えだ とおる) 男・52歳。声優。
駒子の母をよく知っている。
塚田千影(つかだ ちかげ) 女・38歳。音楽プロデューサー。
壬子が所属していた事務所社長の娘。

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○ 放送局ブース内

 SE(オープニングのジングル)

天馬「今日から放送時間と共に番組名もリニューアルしました。
 『トーキングエクスプレス』パーソナリティは私、橘天馬です。
 夕方の忙しくなる時間、少しでも皆様の心のオアシスとなれれば幸いです。
 先週までパーソナリティを務めておりました『トークフルミュージックアワー』の
 橘駒子は今週から産休に入りました。
 えー、ディレクターからもカンペで突っ込みが入っておりますが、番組も
 奥さんも子供も私が責任もって面倒見ますので以後宜しくお願いします。
 では、最初の曲です。
 先日主演映画が公開されました、伊賀地メラの新曲『3−1(さんのいち)』
 です。どうぞお聴き下さい」

 

○ 神久保荘・壬久自室

壬久「おー、なんか駒ちゃんに負けてない気がする」

駒子「なんつーか、さらっと私事を口にするあたりが私には真似できん」

壬久「強くなったねえ、天馬さん」

駒子「あんたはお母さんになって一層強くなったね。壬久」

壬久「え? そう?」

駒子「……今あっちゃん、作業部屋で一人で原稿と格闘中なんでしょ?」

壬久「主線はもう入れちゃってるもん。あとおまかせしてるだけ」

駒子「それでもデジタル処理は許さないわけね。絶対に」

壬久「うん。そりゃもちろん」(きっぱり)

 

○ 放送局ブース内

天馬「イガチさんの映画、試写会で拝見したのですが、タイトルでも分ります通り
 一人の学生を中心に、高校最後の一年間を描いたもので……主人公が現実に
 起こりうる様々な問題を悩みながら乗り越え、成長していく姿はとても共感を
 覚えました。……演出は多少オーバーで、オーソドックスかもしれないけれど
 メッセージが伝わりやすいものでした。この時期に相応しい映画でしょう。
 ところで秋になり、朝晩めっきり冷え込むようになりました。半月前の暑さはどこへ
 行ったんでしょうか。しかし秋といえば物思いの季節です。というわけで今日の
 前半、五時四十五分までのテーマは当番組1回目にもかかわらずですが
 『思い出』という言葉で括ってみたいと思います。
 私の思い出と言うとやはり、この世界に飛び込むきっかけになった妻との出会
 いです。橘駒子、旧姓神久保駒子のファンの方の多くはごぞんじかと思いますが
 彼女は昔、声優をしておりました。
 私は彼女の存在……彼女の演じたキャラクターの存在を知るまでアニメや漫画に
 は興味がなかったのですが、たまたま目にした番組のCMで常識と思っていた
 価値観が覆され、気がついたら追っかけするまでになっていました。
 もうそれからは坂道を転がるかのごとく、です。
 そんな、ただのおっかけが何故結婚まで出来たのか。正直言って未だに謎です。
 まあ、今日はいろんな思い出を紐解きながら、その謎にちょっと迫ってみます。
 もちろん公共の電波を使ってのろけるつもりはございません。
 ただ、パーソナリティとしての橘駒子しかご存知ない方に、少しだけ一人の女性
 としての彼女の素顔を語らせてください」

 

○ 作業部屋

敦也「いや、結局それはのろけでしょ。天馬さん、いやお兄様」

 

○ 放送局ブース内

天馬「人の生き方、人生の方向は決まるまでに色々な要素があると思います。
 例えば駒子さんはまず従妹……いいえ、姉妹に漫画家を持ったことによって
 声優と言う職業に就きました。
 そして私がその駒子さんに出会い、後に放送関係へ進んだ彼女に呼ばれて
 この放送局、JTFMで仕事をするようになりました。
 しかしそれよりもずっと前、彼女は意図せずに一人の俳優の人生を大きく変え
 ています。ではその人物の証言といいますか、メッセージをお聞き下さい」

江田『ええっと、橘君、駒子さん、あらためてご結婚おめでとうございます。声優の
 江田亨です。駒子さん、君はもう覚えていないかもしれませんが、僕が今こうして
 誇りを持って仕事が出来るのはあなたのおかげです。あなたが6歳ぐらいの時、
 事故で入院していた僕のところへお母さんとお見舞いに来てくれましたね。
 その時一生懸命に話してくれたアニメの話を聞いて、声優としてやっていこうかと
 決意したのです。そして転向してからも、僕は一度も後悔していません。
 長じてからの君と一緒に演技が出来た時は、余計に嬉しかった。演技の道を断た
 れそうになった僕を救ってくれた、君は僕の恩人です。どうか誰よりも幸せになって
 下さい。君の、お母さんの分まで……それから法要の後、駒子さんと妹さんがつけ
 ていた指輪の石を見て驚きました。壬子さんが一度だけ僕に我侭を叶えて欲しいと
 ねだられて、贈ったものだったからです。でも嬉しかった。彼女の形見です。大切に
 してください』

天馬「実はこの話は番組の収録に来ていた江田さんに今年の春、聞いていました。
 なんとなくパーソナリティの道へ進むことを決めた私と、江田さんがダブるように
 感じてあらためてお話をしていただいた次第です。
 話題の中にも彼女の母親の話が出ましたが、今年の夏にワイドショーをにぎわせ
 たネタ……駒子さんとその妹である漫画家の神久保壬久さんが、若くして亡くなっ
 たあの名女優・保山壬子の実の娘であるということは、既に多くの方がご存知かと
 思います。
 そう。ここでも一つの縁がリンクしているんです。母親が女優であった、ということで
 駒子さんは幼い時から演技というものに深く触れていました。そんな彼女がまるで
 アイドルのような扱いもされたとはいえ、演技、感情表現に長けた声優として人気
 が出たのは、やはり素地があったからだと思います。活動期間は短かったですが」

 

○ 神久保荘・壬久自室

駒子「……私、ただ好き勝手にやってきたつもりだったのに」

壬久「違うよ」

駒子「……江田さんをお見舞いしたことはなんとなく覚えてる。一緒に仕事することに
 なった時、この人知ってるって思って。話しかけたらお母さんのこと話してくれたし」

壬久「法要で会ったよね。なんか優しい人だった」

駒子「お母さんが、仕事以外で会わせてくれた人って江田さんだけだった。一時この
 人がお父さんなのかなって思ったことあるけど」

壬久「壬子お母さんの手紙で、法要に急に呼ばれたのも江田さんだったんでしょ。
 それに、指輪ってあの双子石の……」

駒子「うん。でもお母さんに昔聞いたんだけど、江田さんには学生時代の恋人に
 子供がいたとかどうとか……それでなんか、好きなんだけど言うのを躊躇った
 んだって」

壬久「あ、恋愛感情はあったんだ」

駒子「そうみたい。お父さんになってもらえなくてごめんね、って言ってた」

壬久「壬子お母さんが結婚しなかったのってそれが原因?」

駒子「かもね」

 

○ 放送局ブース内

天馬「駒子さんと私の関係について、本当のことに気付かせて下さったのは実は
 江田さんでした。江田さんは保山壬子さんと深い親交があり、そのこともあって
 駒子さんを自分の子供のように思っていたそうです。『親ならば』子供の幸せを
 願っても、それは当然のことでしょう。でも、江田さんは機械が苦手で、携帯さえ
 持ち歩かない人です。駒子さんと連絡をとろうにも、仕事か何かきっかけがなけ
 れば手段がありません。それで偶然放送局で出会った私に彼女を託したのです。
 それからは信じられないような急展開の連続で、結婚へと至りました。
 そう言う流れも、やはり縁の成せる技なのかと思います。
 縁と言えば、やはりこれまた駒子さんに関係する芸能界の友人。浦末加奈子さん
 からもメッセージを寄せていただいていますので、読みたいと思います。

 

○ 壬久自室

駒子「この間ライブイベントで一緒に仕事したのに、番組にメッセージ寄越したなんて
 一言も言わなかった」

壬久「そりゃサプライズなんでしょ。お祝いなんだから」

駒子「お祝いもうもらってるよ。半額くらいを物品で返さなきゃいけないんだっけ?」

壬久「お母さんがそう言ってたね。うちも来たよ。加奈子さんからのお祝い」

駒子「何返そうか。結構な金額になるよね」

壬久「うち、手紙に書いてあったよ。今連載中の話がアニメ化されたら主題歌歌わせ
 てくれって(笑い) それでいいからって」

駒子「あはは! 私が加奈子と初めて会ったの、アプルのオーディションだったも
 んね。それ以来の付き合いだもの。ちゃっかり営業しやがったな。あんたのファン
 だもん」

壬久「私の権限であのオーディションは半ばデキレースだったけど、もちろんもっと
 上手い人いたら駒ちゃんは脇に回る予定だった。結局駒ちゃんに決定したけどさ」

駒子「……でもさ、さっきの話なんだけど。やっぱり江田さんって」

壬久「本人は知らないんじゃないの? でも何か、天馬さんは知ってそうだな」

駒子「っていうか気がついてるのかも……」

 

○ 放送局ブース内

天馬「では、ニ曲目は浦末加奈子秋の新曲『オレンジカラー』をお聞き下さい。
 曲の後はCMです。その後、いろんな方からのお祝いメッセージをお届けします」

 

○ 作業部屋

敦也「……なんか、ここまでのろけられるとむしろ圧巻って感じだワ。お兄様」

 

○ 放送局ブース内

 SE(CM明けのジングル)

天馬「浦末さんの今年の目標である、カラーをタイトルに入れた曲の数々……
 一貫したテーマのある作品は、プロデューサーの塚田さんの提案だそうです。
 実はその塚田千影さんからもメッセージを頂いています」

塚田『橘天馬さん、駒子さん、それから神久保壬久さん、敦也さん、ご結婚おめで
 とうございます。壬久さんとは以前、ドラマCDで一緒にお仕事させて頂きました。
 その時駒子さんもご一緒しましたね。三年前縁あって浦末加奈子のプロデュー
 サーを務めることになりましたが、いつも駒子さんと壬久さんの話を加奈子から
 聞いています。今年の夏に発覚しました一件は、実は私は昔から存じ上げて
 おりました。というのも、私の父は保山壬子さんの所属していた事務所の社長
 でしたから。幼いころから、壬子さんにはよく遊んでいただき、私にとっては姉と
 呼んでも過言ではない人でした。ずっと壬子さんとの約束を守って沈黙してきま
 したが、お祝いに一つだけ真実の告白を伝えます。今は亡き私の父は、決して
 駒子さん、壬久さんの父親ではありません。あなた方の本当の父親は壬子さん
 が唯一愛した、ただ一人の男性です。私の父は女優としての壬子さんを育て
 女性として愛しはしましたが、壬子さんが心から望んでいたのは、普通の女性
 としての幸せでした。それをどうか娘であるあなた方が叶えて差し上げて下さい。
 それが私からのはなむけの言葉です』

天馬「縁と言うのは、どこまで繋がっているんでしょうか。私は、真実を知れば知る
 ほど感服せずにはいられません。
 ……今年の7月、保山壬子さんの十七回忌が執り行われました。
 駒子さんと結婚したことで、姻戚となった私は当然妻と共に出席したのですが、
 かつて保山さんと共に仕事をした映画関係者、ドラマのスタッフ、
 共演者の方々が大勢参列されていました。
 惜しまれながら亡くなったとはいえもう十五年です。
 移り変わりの激しい芸能界にありながら、今もなお多くの人の心に生きている
 女優はきっとそんなに多くはないでしょう。それもやはり、ひとえに彼女の人徳で
 あると思うのです。そして縁とは、心の繋がりではないでしょうか」

 

○ 作業部屋

敦也「ホントだなあ。すごい人数だったもんな。挨拶したけど何言ったか俺覚えて
 ないし。でも天馬さんは堂々としてたなあ。駒ちゃんがうちに来てるってことは
 多分壬久と一緒にこの番組聞いてるんだろうな。俺も休憩がてら顔出しに行こう」

 

○ 放送局ブース内

天馬「ラジオのパーソナリティと言う仕事は、顔があまり表に出ない分、心が大切
 だというのが妻の口癖です。私は初め、見えないのだから格好などどうでもいい
 だろうと思っていた時期があります。下手をすると顔さえ洗わずに来たこともあり
 ました。ですが、いつからかそれではいけないと思うようになりました。ちょっとし
 た気の緩みも、声に、言葉に出てしまうのです。見えないからこそ気を配ろうと
 思ううち、いつの間にか私は夢をこの手に掴んでいました。
 『トークフル』のリスナーの皆様、そしてこれからこの『トーキングエクスプレス』に
 耳を傾けてくださっている方々に、私の心が届けば良いなと思います」

 

○ 壬久自室

壬久「なんかちょっと、駒ちゃんの教育の賜物って感じがする(笑い)」

駒子「天馬は元々さ、人の気持ちにすーっと入るのがうまいって言うか、そんな
 感じがしたんだよね。最初に話をしたのはサイン会だったな」

壬久「それでちゃんと覚えてる駒ちゃんもすごいな」

駒子「作り笑顔でさ、適当にサインと握手こなしていく私に『ファンの目ぐらいは見て
 あげたらどうですか』って言うんだもん。びっくりしちゃって。でもムカツクことは
 不思議となくてさ。その後ちゃんと真面目に対応したわよ」

壬久「ああ、それはインパクトあるよねえ。駒ちゃんも天馬さんに教えられたわけだ」

駒子「そうそう。結局お互い様なのよ」

壬久「良いなあ、そう言う関係」

駒子「そうはいうけど、あんたさ、気がついてなかっただろうけど、高校の時から
 あっちゃんの話ばっかりしてたよ。『うちのオタクな担任がさあ』って」

壬久「えっ! マジ? 覚えてない」

駒子「まあほとんどが愚痴だったけど、うざいとか色々。でも電話で話すたんびに
 話題出るんだもん。ははあ、これはちょっと妙だなと思ったよ。まず、オクテな
 あんたが男を話題に出すこと自体有り得なかったもん」

壬久「う」

駒子「ほんっと、縁って不思議なもんだねえ。いろんなことを思い出す度に思うよ」

 

○ 放送局ブース内

天馬「それでは次のメッセージです。パーソナリティとしても大の先輩である小川もこ
 さんと石川小百合さんから……」

 

○ 壬久自室

敦也「ふいーっ、ちょっと休憩させて」

壬久「あ、オタクな元担任が来た」

駒子「お茶入れようか? あっちゃん」

敦也「あ、お願いしていい? 久しぶりに駒ちゃんのお茶飲みたいな」

駒子「んじゃ入れてくる。お茶菓子キッチンにあるよね?」

壬久「うん、あるよ。……で、あっちゃん。原稿の進捗(しんちょく)状況は?」

敦也「ぼちぼち」

壬久「ぼちぼちって」

敦也「指定されたとこはもう少しで終わる」

壬久「ああ、それならいいや。有難う」

敦也「アシが来るのいつだっけ?」

壬久「明日。修羅場はほぼ1日で完了の予定」

敦也「今の時期、アシさんたちの冬コミの準備もあるとは言っても、アシを極端に
 入れなくなったのはなんで?」

壬久「しんどい?」

敦也「いや、大丈夫な範囲でやってるけど」

壬久「毎月って訳じゃないからさ。一年に何ヶ月かはそれだけ搾れば、ボーナスを
 あげられるでしょ」

敦也「えっ! 収入アップ?」

壬久「もちろんその分は働いてもらいますがね」

敦也「うをー! 頑張るぞ!!」

 

○ 放送局ブース内

天馬「素敵なメッセージを有難うございました。お二人は今フリーで活動されて
 おりますが、これからもご活躍を期待しています。さてここでリスナーの方から
 頂いたメールをいくつか読みたいと思います。これはラジオネームがありませんね。
 九州にお住いの波瀬さんからのメッセージです。

 『新番組おめでとうございます。天馬さんのお声は時々、特に今年の春ぐらいから
 FMで良く聞くようになり、落ちついた感じのしゃべりに癒されています』

 ありがとうございます。

 『まっこさんとの結婚が報じられた時はすごい驚きました。僕は、まっこさんが声優
 だったころからのファンです。でも、パーソナリティとしての天馬さんの露出が増える
 につれ、応援したくなる気持ちで一杯になりました。どうかお幸せに。これからも
 素敵な番組を期待しています』

 まっこさん、って呼び方懐かしいですね。声優時代にそう呼んでた人も結構いらした
 のを覚えています。では、次のメールです……」

 

○ キッチン

駒子「ここでこうやってお茶入れるのも久しぶりだなあ。だけど、もうすぐここもなくなっ
 ちゃうのか。引っ越すのは来年とか言ってたけど」

 SE(電話の音)

駒子「あ、電話……どうしよう。壬久が出るかな」

 

○ 壬久自室

壬久「あ、電話」

敦也「俺の方が位置近いから出る」

壬久「私あてだったら代わって」

敦也「うい、了解。……はいもしもし、神久保です」

江田『あの、江田ですが』

敦也「あ! 江田さん。お久しぶりです。婿養子の敦也です。壬久に代わりましょうか。
 今駒ちゃんも来てますけど」

壬久「江田さん!?」

江田『ああ、北海道ではお世話になりました。ところで壬久さんと駒子さんにちょっと
 お話が』

壬久「ねえ、代わって」

敦也「わかってるって。……はい、じゃあ今壬久がそばにいるんで先に壬久に代わり
 ます。駒ちゃんは今別の部屋なので」

江田『お願いします』

敦也「はい、壬久。江田さんから」

壬久「あ、あの。おひさしぶりです。結婚のお祝い有難うございました」

江田『ああ、壬久さん。夏以来ですね。体調は悪くありませんか?』

壬久「大丈夫です。もうすぐ安定期に入りますし。私も駒ちゃんもつわりらしいつわりは
 ほとんどありませんでした。江田さんこそお仕事お忙しそうですけど、お身体大丈夫
 ですか?」

江田『大丈夫ですよ。ところで今、仕事中に録音してた天馬君の放送を聞いたんですが』

壬久「私たちも聞いてました」

江田『(躊躇いがちに)塚田さんの話が事実なら、あの……。あ、今公衆電話から
 なんですが小銭があまりなかったので途中で切れたらすみません』

壬久「江田さん! 今度ぜひうちにいらしてください。ちゃんとお話したいんです」

江田『伺ってもいいんでしたら……』

壬久「来て頂きたいんです。私も、駒ちゃんも」

江田『……分りました、是非』

壬久「お母さんの話を、たくさん聞かせてください。江田さんの知ってること全部」

江田『はい、はい……(涙声)』

壬久「お願いします。おとうさ……。……電話、切れちゃった」

敦也「公衆電話からだった?」

壬久「……うん」

敦也「血は争えないよなあ、壬久。お前は携帯もってるけどほとんど使わないし」

壬久「うん。法要で会ったときね、声優さんだから顔も声も知ってたとは言え初めて会っ
 た気しなかったんだ。やっぱそういうのって分るのかな」

敦也「どうだろうなあ。でもやっぱり、壬子さんは会わせたかったんだろ? 壬久と
 駒ちゃんの、本当の父親に」

駒子「お待たせ! お茶入れてきたよ。あ、もう電話切っちゃったの?」

壬久「江田さんからだったよ。公衆電話だからすぐ切れちゃった」

駒子「江田さん……」

壬久「とりあえずさ、いつかうちに来てくださいって言っておいた。江田さん放送聞いて
 かけて来たから、たぶん分ったんだと思う。天馬さんの言わんとしてたことが」

駒子「そう、だろうね。早く、話したいね……いろいろ。お父さんと」

敦也「俺にとっては、降って湧いた温泉のような義理のおとーさまだな」

 

壬久M「あっちゃんの冗談はともかく、壬子お母さんの遺志によって知った父かも知れ
 ないと言う人の存在。いや、たぶんこれは明確なメッセージなのだろう。天馬さんが
 どう言う経緯で私たちより先にそれを知ったのかは謎だけど……ただ、これだけは
 確かなこと。壬子お母さんにはもうしてあげられない親孝行を『お父さん』にはして
 あげられる。それが、とても嬉しかった」

 

○ 放送局ブース内

天馬「たくさんのメールを有難うございました。これまでずっと聞いていてくださったと
 言う方、今日が初めてだったという方。よろしければこれから先も、ずっとお付き合い
 頂ければと思います。では、次の曲です……」

 

 

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