神久保荘へようこそ 2 「禁断の女子高生」

 

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神久保壬久(かみくぼ みく) 女・十代でデビューした漫画家・25歳
何かというとアナログ志向
神久保駒子(かみくぼ こまこ) 女・26歳。壬久の従姉
ラジオのパーソナリティ・元声優
坂下敦也(さかした あつや) 男・33歳。壬久の高校時代の担任
現在は神久保家の同居人兼アシ
パソコンに強いデジタル志向
橘 天馬(たちばな てんま) 男・24歳。放送局勤務。
かつて駒子のおっかけをしていた。
平井花緒(ひらい はなお) 女・16歳。常連アシのロリコン漫画家
18禁を書く女子高生。

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○ 放送局・ブース内

駒子「次の曲に行きましょう……これは先週発売された浦末加奈子の
 新曲ですね。それでは『ブラッディ・アイズ』です、どうぞ」

 

○ アパート・壬久の作業部屋

敦也「お、いつのまにか駒ちゃんの番組始まってた」

壬久「……あっちゃん、手を止めないでよ」

敦也「はいはい、ごめん。ところでもしかして今日はアシ全滅?」

壬久「ううん。花緒ちゃんが来るよ」

敦也「は、花緒ちゃん!」

壬久「あっちゃんの大好きなロリコン漫画家。しかも現役女子高生の」

敦也「いつも思うんだけど……18歳以下なのにいいのかなあ」

壬久「ま、この業界多いよそういうことは」

敦也「女子高生かあ。誰かさんも女子高生の頃は素直で可愛かったなあ」

壬久「猫かぶってただけ」

 

○ 放送局・ブース内

駒子「ブラッディ・アイズって聞くとどうしてもカクテルの名前連想しますよね。
 ブラッディ・マリーでしたっけ。血濡れのマリーって意味ですけど……
 でもこの歌の歌詞には血とかそういうの出てきません。
 実は血とか汗とか涙って成分が同じなんですよ。
 だからこの歌は涙に濡れる瞳っていうことからこのタイトルをつけたそうです。
 そういった裏話満載の浦末さんのインタビューは今週末の当番組にて
 オンエアいたしますのでお楽しみに」

 

○ アパート・壬久の作業部屋

敦也「で、何時ごろ来るの?」

壬久「午前中に出版社寄ってから来るって言ってたから……もうそろそろかな」

敦也「花緒ちゃんかわいもんなあ。わくわく」

壬久「……えー、お乗換えのお客様は進行方向右側のドアよりお降り下さい」

敦也「別に乗り換える気はない」

壬久「あっそう、ご自由に」

敦也「たとえこの路線が環状線でも、俺は乗り続ける!」

壬久「じゃ、永遠に乗っててね。ハイこれトーン貼って」

敦也「……うう」

 

壬久「あ! インターホンが鳴った」

敦也「あ、出る出る……もしもし?」

花緒『あの……お手伝いに来ました平井です』

敦也「おお! 花緒ちゃんいらっしゃい。すぐ開けます」

 

○ アパート・玄関ロビー

花緒「こんにちは。お久し振りです」

敦也「いらっしゃいませ〜。待ってたよ花緒ちゃん」

花緒「……」

敦也「どうしたの?」

花緒「あ、なんか……今までも何度かお会いしてますけど、うちの新しい担任に
 似てるなあと思って」

敦也「俺が?」

花緒「はい。あ……気を悪くされたらすみません」

敦也「いやいや、全然。花緒ちゃんって学校は都内?」

花緒「はい」

敦也「んー……俺の従弟が私立の高校教師だけど。まさかなあ」

花緒「あ! 忘れてましたけど……これ、壬久センセイの好きな
 月島まんじゅう持って来ました」

敦也「ああ、ありがとう。これ俺も好きなんだよね……まあ、とにかく上がって」

花緒「はーい、お邪魔します」

 

○ アパート・壬久の作業部屋

壬久「いらっしゃ〜い、花緒ちゃん」

花緒「おひさしぶりです、センセイ」

壬久「忙しいのにごめんね。来てもらって」

花緒「いいえ、いい勉強になりますから」

敦也「ほ〜ら、花緒ちゃんのお土産。月島まんじゅうだよ」

壬久「あ〜! 嬉しい、ありがとう」

花緒「ふふ」

敦也「んじゃあお茶入れてくる」

壬久「濃い目にね」

 

○ 放送局・ブース内

駒子「それでは、そろそろお別れの時間です。また日曜日のこの時間まで
 See you again!」

 

○ アパート・壬久の作業部屋

壬久「駒ちゃんの仕事が終わったか……でも今日遅くなるって言ってたなあ」

花緒「大変ですよね。放送関係っていうかメディアのお仕事って」

壬久「そうだね。私たちもそれにあたるけど」

花緒「私はまだ好きにさせてもらってるほうです」

壬久「学生だからね……でも私が高校生の頃はけっこうハードだったなあ」

花緒「隔週刊でしたよね。子供の頃読んでました」

壬久「そうなんだよね……花緒ちゃんと私って十違うもんね」

花緒「子供の頃、一生懸命も絵を真似してた漫画家さんとこうして一緒に
 お仕事出来るなんて夢みたいです」

壬久「そう言ってもらえると嬉しいなあ。漫画家続けて良かったと思うよ」

花緒「アニメも見てましたよ」

壬久「アニメって言えばさ、今度花緒ちゃんのもOVAになるって聞いたけど」

花緒「果樹荘ですか?」

壬久「そうそうそう。うちのあっちゃんがそれを凄く好きでさ、その話を
 秋葉原で仕入れて来たときは満面の笑みだったよ」

花緒「あはは」

壬久「私もけっこう読ませてもらってるよ。面白いんだもん」

花緒「ありがとうございます。実はあれモデルがいるんです。だからネタに
 困らなくて助かってます」

壬久「ああそうなんだ。でも今度掲載雑誌移るんだって?」

花緒「はい、今日そのお話があるんで出版社に顔出して来たんですよ」

壬久「どれに移るの?」

花緒「実写化されるのでもう少しメジャーな大人向けの雑誌になりそうです。
 撮影も始まってるらしいですし」

壬久「実写化? うわー、すごいじゃん。やっぱ18禁かな」

花緒「アニメが15禁程度なんで、実写も同じくらいだと思います……シナリオ
 見た限りでは。はっきり決まってないんですけど深夜枠でテレビ放映される
 かも知れないんで」

敦也「えっ、果樹荘がドラマ化? 知らなかった!!」

花緒「あ、おかえりなさい。敦也さん」

壬久「こういうことになると耳ざといんだからもう」

敦也「なんか凄いなあ。神久保の漫画でさえ今までアニメ二本、ドラマ一本くらいなのに」

壬久「でもCDはいっぱい出てるよ」

花緒「私の場合はジャンルが特殊だからだと思います」

敦也「とりあえず……はい、お茶。そう言えば何で花緒ちゃんってロリコン雑誌に
 漫画を描くようになったの?」

花緒「いただきます……中学生の時に、ちょっとお色気ありの同人誌出したんです。
 それがけっこう売れて、それから出版社に声かけられて…」

壬久「今はきっかけが違うよねえ。昔は投稿くらいしかなかったもん」

敦也「その同人誌、タイトル何?」

花緒「えっと……愛の魔方陣です」

敦也「えっ! 俺持ってる!」

壬久「……さすがあっちゃん(完全に呆れている)」

花緒「あはは……」

壬久「でも、本当は少しでも早くデビューしたかったんだよね。
 だから仕事を選ばなかったんでしょ?」

花緒「正直言っちゃえばお金が欲しかったんですよね。父はもういませんし
 母はずっと身体が弱くて入院してるので」

敦也「……そうか、そんなバックグラウンドが」

壬久「そんなことも知らずに萌えてたあっちゃん。はい、罰としてグラウンド10周」

敦也「う……」

壬久「と言いたいとこだけど、今日はアシの手が足りないから
 残り50枚の枠線引きお願いね」

敦也「はーい」

 

○ 放送局・スタッフルーム

天馬「お疲れ様でした」

駒子「ああ、天馬こそお疲れ」

天馬「今頃まだ修羅場中でしょうね、あっち」

駒子「多分ね。アンタこの後は?」

天馬「待機なんですよ……駒さんは?」

駒子「収録はないんだけど、インタビューの編集がまだなんだわ」

天馬「ああ、浦末さんの」

駒子「雑談ばっかりしちゃったから拾うのが大変で」

天馬「頑張ってくださいね」

駒子「うん。じゃあまたね」

 

○ アパート・壬久の作業部屋

壬久「うーん、このペースで行ければ余裕かな」

敦也「花緒ちゃんって仕事早いね」

花緒「いえ、そんなことないです」

壬久「実際早いし、しかも丁寧だよ。花緒ちゃんのコミックス最初っから
 読んでるけど一度も絵が崩れてるの見たことないもん」

花緒「ありがとうございます」

壬久「明日は学校行くんだよね?」

花緒「ああ、はい。今日は親のお見舞いだって言ってあるので……実際に朝、
 病院に顔は出したんですけどね」

敦也「明日学校の近くまで送るよ」

壬久「ああ、それがいいよね。睡眠時間も6時間は確保してあげるから」

花緒「すみません、気を使っていただいて」

壬久「学生の辛さは、経験のある私だからこそ解る。……だってさ、私が中三の時
 受験前だから、これで今年の投稿は終わりにしようって思って出した投稿で
 デビュー決まったのよ。おかげで受験ギリギリまで原稿に追われて」

敦也「それでもあの高校入れたんだからすごい」

壬久「親との約束だったのよ。成績下がったら漫画の道具全部燃やすって」

花緒「うわあ……厳しい」

敦也「俺もあの学校の教師になるの大変だったけど、生徒のほうがもっと
 大変だよな。俺はどっちみち教員免許持ってたんだし」

花緒「え、敦也さん先生だったんですか?」

壬久「そう、しかも担任」

花緒「敦也さんに似てるうちの先生も……坂下先生も担任です」

壬久「坂下!?」

敦也「ええっ! もしかして踊(おどる)?」

花緒「……そうですけど、どうして名前知ってるんですか?」

敦也「……俺の従弟なんだよ」

壬久「ええっ」

花緒「えーっ」

壬久「同人教師が増殖……」

敦也「まあ、あんまり付き合いないけどね……最近は。以前は良くイベント会場に
 連れて行ってやったりしたなあ」

花緒「ははは…は」

壬久「花緒ちゃん……その担任に目をつけられないように気をつけてね。
 私みたいになるから」

敦也「どういう意味だよ、神久保」

壬久「そのまんまの意味」

敦也「……夕食のシチュー、作るのやめよっかな」

壬久「あっ、嘘です! ごめんなさい。あっちゃん」

敦也「じゃあ、もうそういうこと言うなよ…俺だって傷付くんだぞ」

壬久「ゴメン、ほんとにゴメン」

敦也「よーし、じゃあ買い物行って来る」

壬久「いってらっしゃ〜い」

花緒「いってらっしゃい」

 

壬久「しかし驚いたなあ。従弟がいるってのは聞いてたけど」

花緒「すごい偶然ですよね」

壬久「……その担任ってどんな人?」

花緒「……ちょ、ちょっとヘンな人かなあ。あはは(乾いた笑い)」

壬久「……やっぱあっちゃんのほうがまだマシか」

花緒「そうですね。ええ、絶対そうです」

 

壬久M「可愛い助っ人のおかげで、修羅場は順調に進んだ。あっちゃんがやたら
 “花緒ちゃんに萌え萌え々って騒がしいのはムカついたけど。
 ……ん? なんでムカついたんだろう。
 最近、自分で自分が分からなくなることがある。まあいいや、これもぜーんぶ、
 あっちゃんのせいだってことにしとけ」

 

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