あるスキャンダルの収束

 

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あいぞの恵里(あいぞの えり) 女・芸歴25年の女優・35歳
未婚だが養子がひとり。
かつて保山壬子と共演した。
相苑ゆき(あいぞの ゆき) 女・14歳。恵里の養女。
出身国は日本ではなくアメリカ。
時折関西弁をしゃべる金髪碧眼。
支倉雄二(はせくら ゆうじ) 男・27歳。ゆきの家庭教師。
お笑い芸人を目指すフリーター。
藤沢博也(ふじさわ ひろや) 男・29歳。恵里のマネージャー。

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○ 相苑宅マンション

ゆき「おかあはん! 朝やで!!」

恵里「……起きてるわよ。おはよう、ゆき」

ゆき「おはよう(多少なまり)。ご飯できてるからな。あたし先学校行くで」

恵里「ありがとう。今日は撮影遅くまであるから、帰れないかも」

ゆき「ええよ、今日先生来てくれるし。仕事頑張ってな」

恵里「気をつけてね。行ってらっしゃい。さあ、藤沢さんに電話しなきゃね」

(SE:携帯をかける音)

藤沢『はい、藤沢です。おはようございます』

恵里「おはよう、藤沢さん。何時頃迎えに来てくれる?」

藤沢『八時半には伺います。今日は、撮影の前に雑誌の取材もあります
 ので』

恵里「ああそう。今度のドラマの取材なの?」

藤沢『ドラマの宣伝も兼ねてますが、メインは保山さんのことですよ』

恵里「あ、最近うわさになってるあれね。娘さんたちの父親の話」

藤沢『夏にあった、17回忌の参加者を片っ端から取材してるようですね』

恵里「ほっときなさいよって感じよねえ。断っても良かったのに」

藤沢『私もそう思ったんですが、まあ宣伝も含んでもらえるならとねじ込んで
 みたら快諾されたので……』

恵里「藤沢さんもやるわねえ(笑い) 腕のいいマネージャー持って幸せよ」

藤沢『ありがとうございます。では、今から出ますので支度をお願いします』

恵里「はいはい。じゃあお待ちしてます。安全運転でね」

(SE:携帯を切る音)

恵里「壬子さんかあ、そう言えば私ももう彼女が亡くなった年と同じになった
 のね」

 

○ 地下鉄駅

ゆき「はあ〜っ、もう寒いわあ。明日はコート着てこ。地下鉄は風があるから
 余計に寒うて……」

支倉「あ、ゆきちゃんおはよう」

ゆき「あ、雄二せんせ! 今から仕事?」

支倉「仕事っていうかライブの打ち合わせ」

ゆき「ライブするんだ! いつ?」

支倉「クリスマスイブ。若手芸人が合同でやるディナーショーだよ」

ゆき「チケット残ってない?」

支倉「多分まだ全部は売れてないと思う。……ゆきちゃんは学校?だよね」

ゆき「うん。今日は早く上がれるけどね。ねえせんせ、チケット買わせて」

支倉「買ってもらわなくても良い席取ってあるよ。いつもお世話になってる
 から招待するつもりだったし」

ゆき「ホント!?」

支倉「うん。あ……、電車が来た」

ゆき「あ、私逆方向だ。せんせはこれに乗るの?」

支倉「うん、じゃあまた今晩ね」

ゆき「うん。待ってるね」

 

○ 藤沢の自家用車中

恵里「藤沢さん、お待たせ。ごめんなさいね」

藤沢「いえ、忘れ物はありませんか?」

恵里「大丈夫よ。ゆうべのうちにゆきがしっかり荷造りしてくれてるから」

藤沢「お嬢さん、しっかりしてますね」

恵里「ホントにねえ。良い子に育ってくれてるし」

藤沢「そう言えば私が勤め始めた5年前から、もうお嬢様はいらっしゃいまし
 たが、ゆきさんは何歳から恵里さんの養女に?」

恵里「生まれてすぐよ。海外ロケに行ってる先であの子のご両親が事故に
 あって……ちょっとしたいきさつで出産前後を知ってるものだから可哀想に
 なってね」

藤沢「そうだったんですか」

恵里「今までそんなこと聞かなかったのに、どうしたの?」

藤沢「あ、すみません。保山さんのことをちょっと調べてるうちに……」

恵里「ああ、そういうこと。まあ、あの子に関しても昔はいろいろ言われたけどね。
 隠し子なんじゃないかとか」

藤沢「有り得ませんよね(笑い) ハーフだとあそこまで立派な金髪碧眼には」

恵里「ならないならない。私は生粋の日本人だし。ただ壬子さんが仕事場に
 娘さんを連れて来てたことがあったから、私にもお母さんになりたい憧れは
 あったのかもね」

藤沢「端から見てても、いい親子だと思いますよ」

恵里「あの子は性根から本当に良い子だし、半分はうちの両親のおかげよ。
 養子に迎えたものの、あの子が小学校はいる直前までは関西にいるうちの
 両親が主に面倒見てくれてたんだもの。それよりもう早く出たほうが良いん
 じゃない?」

藤沢「ああ、すみません。……でもだからか、ゆきさんが時々関西弁話すのは」

恵里「そういえばそうね。時々出ちゃうわね、あの子の関西弁。この際だから
 いろいろ話して言っておくわ。あの子についてのこととか。運転に集中して、
 適当に聞き流しておいて」

藤沢「はい。では出発します」

恵里「くれぐれも運転は慎重にね。……事故は怖いから。目の前で見ちゃった
 のよ」

藤沢「死亡事故ですか?」

恵里「死亡事故を一件、人身事故を一件。法要に来てたでしょ。江田さんのよ」

藤沢「あ、そう言えばあの方片腕が不自由でしたね」

恵里「あの人が事故にあった時、私まだ10代の半ばでね。撮影中の事故が
 あって、共演者でさっきまでしゃべってた人の腕がありえないほう方向に
 曲がってるの見て叫んじゃったわよ。ショックでそのあと声出なくなるし」

藤沢「そのドラマ、結局中止になりませんでしたか?」

恵里「良く知ってるわね。ホントに調べたのね」

藤沢「恵里さんの経歴も知ることにもなりますから」

恵里「知らなくて良いことまで知っちゃったらどうするのよ(笑い) 私にだって
 隠しておきたいことくらいあるんだけど」

藤沢「そう言うことについては、たとえ知っても墓まで持っていきます」

恵里「ふうん。模範的なマネージャーさんだこと」

藤沢「お褒め頂き光栄です」

恵里「少しは面白くないと、駄目よ」

藤沢「先程の誉め言葉に、多少の嫌味が入っていることも承知です」

恵里「ふふっ。うん、合格」

藤沢「ちょっと思ったんですが」

恵里「ん? 何を?」

藤沢「取材の際、言いたいこといってみるのも言いんじゃないですか?
 当たりさわりのない発言より」

恵里「そうねえ。事務所に怒られないかしら」

藤沢「今更怒られても、それで凹む恵里さんじゃあないでしょう」

恵里「そうねえ。私が知りえることを、ぶちまけてみるのもいいかも。はっきり
 しないからマスコミも嗅ぎ回るんだろうし」

藤沢「そうですよ」

恵里「そう考えるとちょっと楽しいかも。何から話そうかしら」

藤沢「ただ、しゃべりすぎて取材の時間押さないようにしてくださいね」

恵里「そうだわ。撮影に遅れる訳にはいかないわよね。もうかなり昔のこと
 だけど私前科もちだから……スタッフの信用なくすわけにいかないし」

 

○ 学校

ゆき「美奈ちゃん、おはよう! 先生おはようございまーす! あ、 先生、
 この前没収した漫画返してください!! 放課後職員室に取りに行き
 ますよ!! 約束通り中間テストの成績上げたじゃないですか!!
 約束は守ってください!」
(全体的になまり)

 

○ 打ち合わせ場所

支倉「順番はもうはっきり決まってますか? だいたいの持ち時間は…ああ、
 15分? え、僕のネタですか? ものまねとですね……。ああ、いつもの
 アニメのです。今回はちょっと時の人のもやろうかと……声優の江田さん
 のとか、ちょっと懐かしいアプルのとか。そうです。前ものまね番組にも
 そのネタで出ました。ところで今回他のメンバーと絡むコントはあるんですか?」

 

○ ホテル一室

恵里「ええ、今度のドラマは久しぶりに独身の役なんです。
 あれでしょ、娘がいるのがもう当たり前になっちゃってるから、ここ最近ずっと
 母親の役ばっかりでちょっと嫌気がさしてました。
 でも私が元々娘……養女をもらおうと思ったのはやっぱり保山さんのことも
 あるんですよ。スタジオに娘さん、長女の駒子さん連れてこられることが良く
 ありましたから。
 仲間内ではお子さんがいるというのは知れ渡っていましたね。
 事務所は、マスコミに知れないようにしていたようでしたけど。
 でもいい感じの親子だったんですよ。それで私も、子供は欲しいなって思うように
 なって。だから養子をもらったんです。結婚とかしちゃうと仕事が制限されるし、
 仕事が充実すれば当然私生活が犠牲になります。
 どっちもなんて虫の良い話はないんですよ……芸能界っていうところは。
 渡り方の上手な人もいますけど、私は自分が不器用なのは分ってるので。
 多分彼女もそうだったんじゃないかな。
 最近、私壬子さんの雰囲気に似て来たって言われてるのが嬉しくて。いつか
 彼女の人生がドラマになるのなら、私、その役をやってみたいなと……ああ、
 取り止めのない話ばっかりでごめんなさい」

藤沢「すみません、後一時間でここを出ないと間に合わないので取材はそれまで
 に済ませていただけますか?」

恵里「あら、もうそんな時間? じゃあきちんとまとめてはなさないとね」

藤沢「先程お嬢さんから電話がありまして、無事に帰宅したそうです」

恵里「今日は早いのね」

藤沢「ちゃんと勉強して待ってるからお母さんもお仕事しっかりね、との伝言です」

恵里「分ったって伝えておいて。あ、そうだわ。ちょっと娘のゆきのことも話すわね」

 

○ 相苑宅マンション

ゆき「飲み物の用意よし、おやつと夕食の準備よし。後は先生が来るだけ……
 よし、取り返した漫画読もうっと。神久保壬久の新刊だもん! 学校行く途中で
 買ったっきり読んでもいなかったのに!! 担任のアホンダラ!!」

(SE:電話の音)

ゆき「あ、はい。もしもし? ああ、藤沢さん。どうしたんですか?」

藤沢『先程の伝言ですが、分ったと伝えてとの返答です』

ゆき「あはは! 藤沢さん律儀過ぎ。はいはい了解しました」

藤沢『家庭教師の支倉さんは何時に来るんですか?』

ゆき「えっとね、今日は五時の予定。あ! そうそう。支倉さんがクリスマスライブに
 私とお母さん招待してくれるって。さっき言うの忘れてた」

藤沢『チケットのノルマじゃなく?』

ゆき「うん。自腹で招待してくれるみたいよ。お母さんのスケジュール空いてる?」

藤沢『クリスマスは……年内は舞台もないですから、突発がなければ大丈夫でしょう』

ゆき「わあ! よかった。じゃあ藤沢さん、今日遅くなるそうですけど母のことよろしく
 お願いします」

藤沢『はい。ゆきさんも気をつけてください』

ゆき「はあい」

(SE:受話器を置く音)

ゆき「よーし、今度こそ没頭」

 

○ 打ち合わせ場所

支倉「はい、はい。じゃあそれで……最初のリハは何日に? あ、月末ですか。
 ええ、道具とかも全部準備出来ます。ビデオはDVDとかにまとめて渡せば
 良いんですか? 何枚かつくっておいたほうが? あ、そうですね。大丈夫
 です。自宅で出来ます。著作権の問題とかクリアしてますよね? 大丈夫
 なんですね? それなら問題はなにもありませんね。じゃあお疲れ様でした」

 

○ ホテルの一室

恵里「壬子さんの娘さんたちの父親ですか? もうだいたい分ってると思うんです
 けど……私は直接は聞いてませんし、憶測だけでいろいろ言うのはどうかと
 思うんですよね。私がもし彼女なら、やっぱり詮索されたくはないですし。17回忌
 を迎えるにあたって、娘がいたことだけでも公にした彼女の気持ちを考えて
 欲しいんです。もう、ゆっくり眠らせてあげられないんですか?」

藤沢「すみません、そろそろ時間です」

恵里「あ、じゃあ失礼します。ドラマのことも出来るだけ取り上げてくださいね。
 今日はお疲れ様でした」

藤沢「では」

 

○ 相苑宅マンション

ゆき「ああ〜! 今回も面白かった。コミックスのために雑誌読むのも我慢して
 半年……。お、もう五時前。そろそろ先生来るかな。今日もものまね聞かせて
 くれるかな」

(SE:チャイムの音)

ゆき「はあーい!! 先生!?」

支倉「支倉です。“開けてくれなきゃ暴走しちゃうぞ”」

ゆき「今開けまーす。……のっけからアプルか。テンション高いなあ」

支倉「こんばんは〜、ゆきちゃん」

ゆき「こんばんは! いらっしゃいませ雄二先生」

支倉「お邪魔します。お母さんお仕事?」

ゆき「うん。ドラマの撮影」

支倉「僕なんかコントの撮影ですら疲れるのに、大変だよね」

ゆき「台本何ページだと思ってるのよ」

支倉「いや分ってるけどさ。脚本誰なの?」

ゆき「三原さん。あの人の台本めちゃくちゃ長いんやから」

支倉「知ってる知ってる。芸人仲間から俳優に転向したのもいるし。話は聞いてる」

ゆき「でもね、あたしおかあはんの……あ、いや。お母さんの練習相手つとめ
 てんねんで」

支倉「お、じゃあ台詞も覚えて?」

ゆき「少しはね。でもやっぱり全部なんて無理……役者さんってすごいね」

支倉「ねえ、ゆきちゃんてさ」

ゆき「なに?」(なまり気味)

支倉「僕とかの前だとなんで無理に標準語で話そうとするの?」

ゆき「……いや、だって恥かしいやん」

支倉「そうかなあ」

ゆき「あたしが恥かしいの! 構わんといて」

支倉「だってさあ」

ゆき「なによ」

支倉「ゆきちゃんが方言隠さない時って、本音しゃべってるときだから」

ゆき「う」

支倉「標準語使われちゃうとなんか淋しいなと思って」

ゆき「あたしがええかっこしいなんは今に始まったことやないやろ!」

支倉「見た感じと、方言のギャップが面白いのに」

ゆき「……今度それ言うたら首にしてもらうで。おかあはんに頼んで」

支倉「ごめん……もしかして気にしてた?」

ゆき「じいじとばあばと暮らしてた幼稚園のときな、先生やら同じ組の
 子らに散々言われてん! 物投げられて額切っても、先生も笑って
 見とるだけやし。しまいには増長した奴にからかわれながら高いとこ
 から突き落とされて、あばらと腕と足骨折や!」

支倉「……それはひどいな」

ゆき「入院した知らせ受けて、おかあはんが撮影すっぽかしてまで来てくれて。
 それからおかあはんと暮らすようになったんや。そやから先生、あたしのウマ
 シカに……」

支倉「ウマシカ?」

ゆき「と、トラウマや! ちょっとボケてみただけや!」

支倉「は、あはは(笑いを堪えながら)……ゴメンゴメン。分かった。もう言わないから」

ゆき「ホンマやな?」

支倉「うん。ホントにゴメン」

ゆき「わかったらええねん」

 

○ スタジオ

恵里「今何時?」

藤沢「今は、10時を回ったところです」

恵里「撮影は順調なんだけど……今日は長いみたいだしねえ」

藤沢「1話分の撮りじゃないんですか?」

恵里「今日は同じシーンをね、いろんなパターンでって言うか……まあ緊張感を
 なくさない為に一度に撮るつもりらしいんだけど」

藤沢「ああ、日を改めてとかだと確かに気分も変わりますよね」

恵里「脚本の三原さんと演出の人のこだわりだから。……いいんだけど疲れるわ」

藤沢「ゆきさんに連絡しましょうか?」

恵里「んー……いいわしなくても」

藤沢「家庭教師の先生はさすがに帰ってるでしょうね」

恵里「10時までならいたと思うわよ。さすがにそれ以上は何かあったら問題だから
 居残り禁止にしてるけど」

藤沢「もうゆきさんも14歳ですからね」

恵里「支倉さんは大丈夫だと思うけど、ゆきのほうがもう意識する年頃だからねえ」

藤沢「心当たりがありますか?」

恵里「どうせ知ってるんでしょ。18のときに初めてスキャンダルあったけど、それ以前に
 お付き合いのあった年上の俳優さんがいたこと」

藤沢「まあ、小耳には挟みました」

恵里「私がその人にモーションかけたの13のときよ? 付き合い出したのは15」

藤沢「早熟ですねえ」

恵里「おとなの駆け引きがいやってほど目に入る世界よ。勘違いするのも仕方ないわ」

藤沢「でも、恵里さんはゆきさんを、そんなに業界の空気に触れさせてはいないじゃ
 ないですか」

恵里「そりゃあもう自分で身に染みて分かってるから。でも育てたのは私よ。
 考え似ちゃってもしょうがないじゃない?」

藤沢「あ、ディレクターが呼んでますね」

恵里「さて、じゃあ仕事に戻ります。……ディレクター! そんなに急かしたら
 浅沼さんのことマスコミと奥様にチクリますからね!」

藤沢「……不思議だなあ。ホントに性格そっくりだ」

 

○ 相苑宅マンション

ゆき「じゃあ先生、おやすみなさい」

支倉「おやすみ。一人で大丈夫? 窓とかちゃんと閉めておくんだよ」

ゆき「うん。さっき防犯センターに連絡したから、大丈夫」

支倉「じゃあ帰るよ。また今度ね」

ゆき「五分以内に出ないと、先生警備員に捕まっちゃうよ」

支倉「……せめて僕が出てから連絡してよ」

ゆき「あはは〜。今度はそうする。15分も残ってくれてありがとう」

支倉「サービス残業だから、いいの。じゃね」

ゆき「おやすみ……」

(SE:ドア閉まる音)

ゆき「あーあ。先生帰っちゃったよ。お風呂入ってゲームでもしようっと」

 

○ マンション外

支倉「はあ、でもすごい剣幕だったな。ゆきちゃんが本気で怒ってるの初めて見た。
 もう気にしてなきゃ良いけど、悪いこと言っちゃったな。人ってそれぞれトラウマが
 あるもんなんだなあ。まあ物真似喜んでもらえて良かった。少しはいやなこと忘れ
 られたかな」

 

○ スタジオ

恵里「終わった終わったーっ! さあ帰りましょ」

藤沢「ご苦労様でした」

恵里「あら、もう三時過ぎちゃってる」

藤沢「さすがにもう休んでるでしょうね」

恵里「藤沢さん大丈夫なの? 仮眠とった?」

藤沢「はい、11時くらいから2時まで寝てました」

恵里「まあ! 女優が一番寝たい時間に」

藤沢「はい、申し訳ございません」

恵里「まあでもそうしてもらわないと、帰りの運転が怖いものね」

藤沢「そう言われると思いまして」

恵里「じゃあ今日の最後のお仕事お願いします」

藤沢「はい、では車を回してきます」

恵里「……(あくび) 明日はオフだし、ゆきの朝ご飯作ってから寝よう」

 

藤沢「お待たせしました」

恵里「ありがとう。車に乗ると何かほっとするわね」

藤沢「ミニ冷温庫にお絞りと温かい飲みものを入れてあります。シートベルトを
 締める前にお取りください」

恵里「そうそう、これよこれ。いつも締めのときは準備してくれてるから余計に
 安心するのよね」

藤沢「恵里さんが頑張ってくださるからこそ、私もメシが食えますから。やりがいは
 あります」

恵里「どんどん頑張るわよー。だから主演の仕事もっと探してきて」

藤沢「……努力はします」

恵里「昔はねえ、壬子さんに憧れてた。でも私はもうすぐ彼女を越えて行く。
 年齢も、それから女優としても。ゆきのためにも、そうならなくちゃ。だって
 母親なんだもの」

藤沢「……そうですね」

藤沢M「シートベルトを締め、お茶を口に運ぶ恵里さんを見届けると、私は車を
 発進させた。ここ最近ワイドショーやスポーツ新聞を賑わせていた今は亡き
 女優のスキャンダルは、恵里さんの記事をきっかけに収束していったのだが
 ……私はまたそこにも、母としての“彼女ら”の強さを感じていた」

 

BACK   END