≪偶然という名の…≫
竹中真由美…23歳・女性。フリーター・尚子の友人で山口県在住。
加治木尚子…21歳・女性。コピーライター・福岡市在住。
タクシーの運転手…他県から流れてきた男。
細井エリ…真由美の同級生。
○ 博多駅構内
真由美「尚子、来週の水曜日また遊びに来ていい?」
尚子「あ、いいよ。休み取れた?」
真由美「うん。急に同僚と休み交代することになってさ」
尚子「もし、私が仕事で遅くなってもさあ。鍵いつものとこ
置いとくからそれで入っててね」
真由美「わかった。じゃあね!」
尚子「気をつけてね」
○ 自宅(アパートの一室)
尚子「あ…真由美の忘れ物」
○ 回想
真由美「この写真さ…、見て」
尚子「ん?」
真由美「私の高校の時の同級生でさ…細井さんっていうんだけど」
尚子「…それで?」
真由美「彼女さあ、2年前変死したのよ」
尚子「変死?」
真由美「さほど仲が良かったわけじゃないんだけど、自分の知ってる
人がそういう目にあうのって…なんか、ねえ?」
尚子「まあ、いやだよね」
真由美「尚子霊感強いじゃん? 何か分かるんじゃないかと思ってさ」
尚子「うーん…。そういう真由美だって結構強いじゃない」
真由美「…でも、私には今一つピンとこなくて」
尚子「そうなの?」
真由美「だから、ちょっと見てもらおうと思って持ってきたの」
○ 自宅(アパートの一室)
尚子「こんなの置いて行かないでよ、もう…」
○ 深夜・天神デパート前
尚子「ああ…もう11時半だ。真由美待ってるだろうなあ。タクシー捕まえなきゃ」
タクシー運転手「お客さん、乗りますか?」
尚子「あ、すみません。おねがいします」
○ タクシー車内
タクシー運転手「どちらまで行かれます?」
尚子「あんまり遠くないんですけど…変電所後地の裏にある保育園の前のアパートまで」
タクシー運転手「そんなんありましたっけ?」
尚子「ああ、はい。小さいところなので知らない方も多いですけど」
タクシー運転手「…私ですねえ、福岡に来てまだひとつきしかたってないんですよ」
尚子「はあ」
タクシー運転手「前は広島にいたんです」
尚子「広島?」
タクシー運転手「だからこっちの地理、まだ慣れてないんですよ」
○ 回想
真由美「で、この細井さんね。高校卒業してから親の離婚のせいで山口を出たの」
尚子「うん、で?」
真由美「それからの消息は、彼女が変死体で発見されるまで分からなかったんだけど…」
尚子「…………」
真由美「広島で、ダムが干上がったことがあるの知ってる?」
尚子「ああ、知ってる。かなり底のほうまで水がなくなったんだよね」
真由美「そうそう。そのときにさ…発見されたのよ」
尚子「あ…それ新聞で見たかも」
○ タクシー車内
タクシー運転手「ええ、前は広島にいたんです」
尚子「……そ、そうなんですか」
タクシー運転手「それから転々と、ね。・……どうされたんですか?」
尚子「い、いえ…ちょっと仕事が忙しかったので、疲れて…」
タクシー運転手「仕事帰りだったんですか」
尚子「はい」
タクシー運転手「大変でしたねえ」
尚子「はい……」
○ 回想
真由美「遺体の解剖の結果によると、どうも殺されてからダムに…」
尚子「うわ……」
真由美「でも何で彼女がそこで発見されることになったのか…
それは分からないままなのよ」
○ タクシー車内
タクシー運転手「具合悪そうですが、大丈夫ですか?」
尚子「大丈夫……です」
タクシー運転手「そうですか」
尚子「あの、どうして広島からこちらに?」
タクシー運転手「いや、それがねえ」
尚子「……?」
タクシー運転手「あんまり良くないコトしちゃってさあ」
尚子「よくないこと…って?」
タクシー運転手「……まあ、それはご想像におまかせします」
尚子「…………」
タクシー運転手「あ、つきましたよ。上まで送っていきましょうか?」
尚子「い…いえ、結構です!」
タクシー運転手「そうですか? …1480円になります」
尚子「ここ…1500円置いていきます。じゃあどうもありがとうございました」
○ アパートの部屋の前
尚子「……(呼吸が収まらないまま、ドアを叩く)」
真由美「(ドアの中から)はーい! 尚子?」
尚子「…けて! 真由美開けて!!」
真由美「ど…どうしたの?」
○ 自宅(アパートの一室)
尚子「……ただいま」
真由美「顔色悪いよ? 大丈夫?」
尚子「わかんない…なんかすごく悪寒がして」
真由美「それにしても遅かったね。大変なんだなあ…広告代理店って」
尚子「…うん。今日忙しくて何も食べてない」
真由美「あらら…」
尚子「あ、ご飯用意してくれてる」
真由美「うん。帰ってきたら話そうと思ってたことがあって」
尚子「何?」
真由美「この間…私写真忘れて帰ったでしょ?」
尚子「ああ…」
真由美「あの細井さんの件でさ、新しく分かったことがあってね」
尚子「……何?」
真由美「細井さんね、行方不明になったその日…アーティストの
コンサートに行ってたんだって」
尚子「うん、それから?」
真由美「11時過ぎに友達と分かれて、そのあとタクシー拾って……
それ以降の足取りが掴めてないんだよ」
尚子「…………」
真由美「彼女を乗せたタクシーの運転手も、その日以降行方不明になってて」
○ 回想
タクシーの運転手「広島にいたんだよ」
○ 自宅(アパートの一室)
尚子「……で?」
真由美「前も遺体解剖された話したけど……乱暴されて殺されてから
ダムに沈められたらしいよ」
尚子「…………」
○ 回想
タクシーの運転手「広島で良くないコトしちゃってさあ」
○ 自宅(アパートの一室)
真由美「……顔色、悪いよ? 尚子」
尚子「真由美……実はね……」