枝のつぼみが咲くころに 「大人の事情」
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| 神久保淳久(かみくぼ あつひさ) | … | 男・小学二年生・7歳。一歳未満から 子役をしている。超売れっ子。 |
| 橘 さくら(たちばな さくら) | … | 女・7歳。淳久の従姉。 小学二年生。漫画家志望。 |
| 橘 駒子(たちばな こまこ) | … | 女・33歳。神久保壬久の姉。 ラジオの人気パーソナリティ・元声優。 さくらの母。 |
| 神久保敦也(かみくぼ あつや) | … | 男・40歳。壬久のアシスタントの傍ら 学習塾に勤務。 淳久の父・神久保壬久の夫。 |
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○ 神久保家・作業部屋
さくら「ママ、つわり酷いみたい。私の時は平気だったって言ってるのに」
敦也「そうかあ、なんだったら落ちつくまでおじさんとこから学校に通って
もいいよ。車で送っていける範囲だし、多分壬久も駄目とは言わないと
思う」
さくら「うーん、あっくんに毎日会えるから美味しい話だとは思うんだけど
ああ見えてお母さん淋しがりだからさ。パパがいない時には私がいて
あげないと」
敦也「ま、そうだな。お姉ちゃんになるんだし」
さくら「ただ週末は殆どお世話になるかも。あっくん仕事でいないこと
多いけど、壬久ちゃんに習わなきゃいけないこと多いし、あっちゃん
には勉強教えてもらいたいから」
敦也「おう、淳久と一緒にみっちりしごいてあげよう」
さくら「う。厳しいのヤダ」
敦也「でも面白いだろ、一学年先の勉強って」
さくら「うん! 学校の授業で凄い余裕なの。楽しくてしょうがない」
敦也「淳久もそう言ってたな。あいつは授業受けれないこともあるから
コンプレックス感じさせたくなかったんだ」
さくら「だからなんだ。あっくんが幼稚園入る時から塾の先生になったの」
敦也「その通り。俺ももう長いこと人に教えてないし、勉強のし直しも
兼ねてもう一度先生やってみようって思ったんだよ」
さくら「いいお父さんだ」
敦也「壬久に聞いた……あわわ、淳久に聞いたけど、もしかしたら将来
さくらちゃんのお父さんになるかもしれないんだな」
さくら「うん! よろしくお願いします」
敦也「いいえ、こちらこそ。とにかく今はデッサンやってしまわないとな」
さくら「難しいよう。でも頑張る……壬久ちゃん帰ってくるまで」
敦也「世間は花のゴールデンウィーク……壬久は久々のイベント参加。
ああ、そう言えば今日はおじいちゃんも泊まるんだってさ。うちに」
さくら「わ! じゃあおじいちゃんとアフレコごっこする」
○ S川駅
淳久「あ、駒ちゃん」
駒子「あっくん、どうしたのこんなところで」
淳久「今、撮影の時間待ち。今日はあとワンシーンだけなんだけど」
駒子「ああ、お仕事中か。映画だっけ?監督誰なの?」
淳久「うん、秋公開のね。監督は布袋さんだよ。そう言えば体調
悪いって聞いたけど出歩いて大丈夫なの?」
駒子「布袋さん!? ああ、あの人ね……うん、ちょっと仕事関係でさ
どうしても出かけなきゃならなくて」
淳久「気をつけてね。お腹に赤ちゃんがいるって大変なんだね」
駒子「さくらの時は全然平気だったんだけどねえ。ああ、そう言えば
さくらに聞いたけど、あの子をお嫁にもらってくれるって?」
淳久「うん」
駒子「あはは、ありがとう。私に似て我侭娘だけどよろしくね」
淳久「そんなところも可愛いんだよ」
駒子「……言うわね」
淳久「天馬おじちゃんだってそう思ってるはずだよ。駒ちゃんのことをさ」
駒子「あっちゃんに似てるとばかり思ってたけど、あっくんって壬久にも
やっぱ似てるわ。親子なんだなあ」
淳久「そうなの?」
駒子「うん、そう言う自覚のないとこもそっくり」
淳久「お父さんに似てるって言われるのも嬉しいけど、お母さんに似て
るって言われるのも嬉しい」
駒子「いい子だねえ、さすが壬久の息子。さくらが惚れるのも分かるわ」
淳久「あ、マネージャーさんが来たからそろそろ撮影再開みたい」
駒子「ああ、私も電車の到着時刻が近いわ。じゃあまたね」
○ 神久保家・キッチン
敦也「そろそろお腹空いたなあ。壬久たち打ち上げして帰るみたい
だから、先に何か作っちゃおうか? さくらちゃん」
さくら「うん! あっちゃん、料理教えてね」
敦也「そうだなあ。魚の煮付けなんかどうだろう。新鮮なカレイがあるし」
さくら「あ! 嬉しい。うちじゃ滅多にしないの」
敦也「よーし、じゃあさばき方から教えよう。怪我しないようにね」
さくら「ん、気をつける」
SE:インターホンの音
敦也「ん? はい〜、って淳久」
さくら「あっくん!?」
淳久『ただいま、ちょっと荷物が多いからドア開けて、お父さん』
敦也「おう、待ってろ。……ほら、開けたぞ」
淳久『ありがとう』
さくら「あっくんが帰ってきた!!」
敦也「一気にハイテンションだな。さくらちゃん」
○ 神久保家・玄関
さくら「あっくん、おかえりなさい!」
淳久「ただいま、さくらちゃん」
さくら「今からご飯作るね。お部屋で休んでて」
淳久「うん。ちょっと眠ってくる」
敦也「おかえり、淳久。しかし凄い荷物だな」
淳久「撮影に使ったお店の人がさ、いっぱいお土産持たせてくれたんだ」
さくら「発泡スチロールいっぱい。何が入ってるの?」
淳久「魚と、伊勢海老。それに鍋のスープとか色々」
さくら「すごーーい」
敦也「こりゃ夕食の準備要らないか?」
淳久「どうせなら明日食べようよ。今日はお母さん遅くなるんでしょ?」
敦也「まあそうだなあ。じゃあ続きやるか、さくらちゃん」
さくら「うん!」
淳久「じゃあ、ご飯出来たら起こしてね」
敦也「おう、寝て来い寝て来い」
さくら「おやすみ、あっくん」
○ 放送局・ブース内
駒子「……お腹に命が宿った事を知ったとき、すごく胸が熱くなりました。
そんな気持ちを感じた人は、私だけじゃないはず。だから今、その
気持ちを思い出して欲しいんです。ストップ、虐待。振り上げたその
手で叩くのではなく、子供を抱き締めてください。ゆっくり、やさしく」
○ 神久保家・キッチン
敦也「お、駒ちゃんの声だ」
さくら「ママのよそ行きの声だ」
敦也「あはは、そうか。やっぱり家で本人の喋るの聞いてるからなあ」
さくら「うん。でもママのお仕事の声、嫌いじゃないよ」
敦也「アニメは見たっけ?」
さくら「見たよー。もうずっと前だけど。ママがキレてるときの声みたい」
敦也「あー、なるほど。そう感じるのか」
さくら「うん。でも面白いよね」
敦也「いやー、実はさあ。壬久の漫画だって知らなくて、壬久にも
駒ちゃんにも萌えてたんだよ。学校のセンセしてた時」
さくら「へー」
敦也「内緒だぜ」
さくら「あはは、うん。わかった」
○ 放送局・ブース内
駒子「子供は、あなたの怒りや悲しみをぶつける標的ではありません。
気付いてください。今、あなたがどんな顔をしているのか。
……ストップ、虐待。言葉の暴力は、身体を傷つける以上に許され
ないことです」
○ 神久保家・キッチン
敦也「そう言えば4月から番組に出るのが少なくなった代わりに、
こういうCMが増えたのはなんで?」
さくら「なんか、虐待防止キャンペーンなんだって。そのイメージ
キャラクターがママなの」
敦也「やっぱお母さんだからなのかな。余計に重みがあるよな」
さくら「でも、ママ私には優しいけど、パパには虐待に近いことしてる
よなあ」
敦也「マジで? 殴るの?」
さくら「それはないけど、明らかにいじめてるときあるもん」
敦也「ああ、それは多分愛情の裏返しだよ」
さくら「そうなの?」
敦也「おじさんとこもそうだからさ」
さくら「壬久ちゃんいじめちゃ駄目よう!」
敦也「いや、その……その逆」
さくら「え? あっちゃんがいじめられるの?」
敦也「うん」
さくら「なんで?」
敦也「さあ? でももう今は慣れた。愛されてるなって分かるから」
さくら「……おとなってわかんない」
敦也「さくらちゃんはどうかそのまま大きくなってくれ。……お、もう
出来たみたいだな。淳久呼んで来てくれないか?」
さくら「うん! 行って来る」
敦也「ほんと、そのまま大きくなってくれたら萌え〜なんだけどな。
いや、断じて変な意味じゃないぞ。断じて!」
○ 淳久自室
さくら「あっくーん!」
淳久「ん……」
さくら「あっくんの寝顔かわいい! キスしちゃお」
淳久「!」
さくら「やっと起きたー」
淳久「さ、さくらちゃん」
さくら「ご飯出来たよ!」
淳久「う、うん」
さくら「顔赤いよ? 大丈夫?」
淳久「……赤くなるようなことしたのさくらちゃんじゃないか」
さくら「キスなんて子供の頃いっぱいしてたでしょ」
淳久「いや今でも子供だけど」
さくら「ごちゃごちゃ言わない! とにかく食べようよ」
淳久「……うん」
○ 神久保家・食堂
敦也「よーし、いただきます」
さくら「いただきます!!」
淳久「いただきます」
敦也「ん? なんか淳久顔が赤いな。熱でもあるのか?」
淳久「い、いや。ないよ」
敦也「それなら良いけど。明日も撮影?」
淳久「明日はスタジオでね。そんなに拘束されないけど」
さくら「クランクアップはいつごろなの?」
淳久「監督は6月中にはって言ってたかな。でも映画のおかげで
今年の夏はゆっくり出来るかも」
敦也「おお、そうか。でもまた秋からドラマが目白押しだろ?」
淳久「うん、でもいいんだ。仕事は好きだし……あ、これ美味しい」
さくら「ホント? 私味付けしたの」
淳久「え、すごいね。いつものお父さんの味だと思った」
さくら「あっちゃん料理上手いもんね」
敦也「いやー、それほどでも」
淳久「あはは。さくらちゃんは飲み込み早いよね。なんでも」
敦也「うんうん。割合を覚えるのが早いよな。算数得意かも」
さくら「お料理に算数関係あるの?」
淳久「ないわけじゃないかも知れない。人数によって数量とか変え
なくちゃいけないこともあるし」
さくら「ああ、そっか」
敦也「そうそう。さすが淳久だな。」
淳久「今日実は、料理のレシピを殺人トリックに使って……っていう
ような場面があってさ」
さくら「映画で?」
淳久「うん」
敦也「それ面白いな」
淳久「台本見ながら面白いなあって思ったんだ。本来なかったシー
ンなんだけど」
さくら「え、じゃあ急に変わったの?」
淳久「脚本家が監督に言われて、ホテルにこもって3時間で書き
上げたんだけど……ああ、その待ち時間中に駒ちゃんに会ったよ」
さくら「ママに? またあの仕事かな」
淳久「仕事だって言ってた」
敦也「大変だな。具合悪いのに」
さくら「パパに会いたかったのかも」
敦也「ほら、ちゃんと仲いいんじゃないか」
さくら「そりゃあさ、いっつもママがパパをいじりまくってるけど……
いっつも私があっくんとこから帰ると妙にべったりしてるんだよね。
だから仲が悪いとは思わないけど」
敦也「それって……ああ、そういうことか」
さくら「でも私、やっぱりおとなってわかんない」
淳久「ははは……」(何となく察して乾いた笑い)
敦也M「さくらちゃんの修行と称して、うちに送り出すのは
そう言うことだったんだな、うん。……でもうちは同じ手は
使えないなあ。いっつも仕事とかで誰かいるし。ううう。
ちょっと最近、欲求不満」