枝のつぼみが咲くころに 「大切な命」
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| 神久保淳久(かみくぼ あつひさ) | … | 男・小学二年生・7歳。一歳未満から 子役をしている。超売れっ子。 |
| 橘 さくら(たちばな さくら) | … | 女・7歳。淳久の従姉。 小学二年生。漫画家志望。 |
| 神久保敦也(かみくぼ あつや) | … | 男・41歳。壬久のアシスタントの傍ら 学習塾に勤務。 淳久の父・神久保壬久の夫。 |
| 江田 亨(えだ とおる) | … | 男・60歳。人気声優。 淳久・さくらの祖父。 |
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○ 神久保家・玄関
敦也「親父どの、これもお願いします」
江田「おう、敦也君。まだ持てるが他にはないか?」
敦也「いや、これで全部です。後は俺が持っていきます」
江田「しかし、何度経験しても慣れんものだな。孫が生まれるって言うのは」
敦也「仕方ないですよ。親父どのは自分の子供の出産すら立ち会えて
ないんですから」
江田「そういえばそうだなあ」
敦也「駒ちゃん、もう分娩室入ったそうです。さっきさくらちゃんから携帯で
連絡がありました」
江田「そうか、間に合えばいいな」
敦也「そんなすぐには生まれないですよ、いくら経産婦でも。でも急ぎ
ましょう」
○ 産婦人科・分娩室前廊下
さくら「あっちゃん! おじいちゃん!!」
江田「おお、さくら。悪かったな遅くなって」
さくら「よかったあ……パパが仕事でこれないから淋しかったよ」
敦也「将来のパパが来たから安心だぞー」
さくら「……パパはパパしかいないもん。あっちゃんは未来のおとーさんだよ」
江田「ははは」
敦也「うーん、おとーさんって呼ばれるのも、萌え」
江田「駒子の様子はどうだった? さくら」
さくら「お腹と腰が昨日より痛い痛いって言ってたけど、お医者さんに
向かってキレる元気はあるみたい」
江田「そうか。それなら大丈夫だな」
敦也「大丈夫……なのか?」
さくら「壬久ちゃんついてるから大丈夫。一緒になってキレてるけど」
敦也「さすが姉妹。あ、確かに奥から怒鳴ってる声が聞こえるなあ。
……アレはうちの奥さんのようだな」
さくら「……ねえ、あっちゃん。あっくんはいつ来れる?」
敦也「そうだなあ。ドラマの撮影の進行具合によるけど……今日の
スケジュール考えると生まれるのは間に合わないかもしれないな」
さくら「あーあ、あっくんいてくれたらなあ」
江田「まあ報せは行ってるんだし、淳久も気にかけてるんだからさくら
一人じゃないだろう。もちろん仕事中の天馬君も同じだ」
さくら「……うん」
敦也「こういう時、ふつーの会社づとめじゃなくて良かったと思う」
江田「役者もフレックスタイムだからな」
さくら「私はもう二日も学校休んでる」
敦也「母親が心配なんだからしょうがないよ。天馬さんはイベントの
司会で一昨日から北海道行ってるしなあ」
江田「僕は年末が近いから収録がなくて助かった。少しでもそばに
いてやれるのが嬉しい」
さくら「おじいちゃん、あっちゃん、一緒に祈ってね。赤ちゃんが無事に
生まれますようにって」
敦也「そうだな。……どうか駒ちゃんも赤ちゃんも無事でありますように」
江田「壬子さん……二人を守ってやってくれ」
さくら「ママ……弟君」
○ 撮影所
淳久「じゃ、すみません。明日は学校休んで必ず出ます。ディレクター、
ありがとうございます。……あ、マネージャー。駒ちゃんのいる病院
まで車をお願いします」
○ 産婦人科・分娩室前廊下
江田「……駒子、苦しそうだな」
敦也「さくらちゃんは早産だったから小さかったけど、二人目は臨月
まで育ったし、なんか体重あるらしいって聞いたからなあ。難産に
なるかも」
さくら「私、1800グラムだったって言ってた。でもそれでもしんどかっ
たって言ってたから……」
敦也「初産だからそれはそうだろうな。淳久でも2000グラムだったのに
壬久は相当苦しんでたからな」
江田「しかし女性は本当にすごいな。話によると男は出産の痛みに
耐えられないそうじゃないか。心臓麻痺を起こすだろうって聞いたぞ」
敦也「そうですね……それ聞くとメチャメチャ尊敬しますよね」
さくら「ママ……」
江田「もうここへ来て2時間か……」
さくら「あ! あっくん!!」
淳久「さくらちゃん、遅れてゴメン! おじいちゃん、お父さん、駒ちゃん
まだ?」
敦也「おう、淳久。撮影大丈夫なのか?」
淳久「どうしても身が入らなくて、ディレクターにお願いして明日にして
もらった」
江田「明日って、終業式あるんじゃないのか?」
淳久「いい、撮影を優先する」
江田「学校行事は淳久の最大の優先事項だったのにか?」
淳久「……こっちと、仕事のほうが大事だよ」
さくら「あっくん、ありがとう。まだ赤ちゃんは生まれてないよ」
淳久「そっか……でも間に合って良かった。不謹慎だけど、ちょっと
賭けてたんだ」
敦也「賭けるって、何を?」
淳久「映画がロングランになったから、別のところから話が来てさ。
それに出るかでないか……間に合ったら出ようと思って」
江田「お前にしては迷うなんて珍しいな」
淳久「……ちょっとハードな内容なんだ。末期の小児癌患者を演じ
なきゃいけないから」
江田「これから生まれる命に、賭けるコトじゃないな。ちょっとけしか
らんぞ」
淳久「うん、ごめんなさい。でも……事務所に言われたんだ。受ける
ならそれ相当の覚悟が要るって」
敦也「なんでまたそこまで」
淳久「体重落とさなきゃいけないんだ。ギリギリまで」
さくら「今だってあっくん痩せてるのに」
淳久「お医者さんが指導についてくれることになってるから、大丈夫
なんだけど」
江田「淳久がそこまで無理しなくても」
淳久「生まれる命も大事だけど、消えていく命も大事なんだよ。
おじいちゃんならわかってくれるでしょ? それにその話、実話が
元になってるから余計に……」
敦也「ああ、下手な手は抜けないってわけか」
淳久「……うん。それにね、前にドキュメンタリー番組見てさ、モデルに
なった人のこと知ってたんだ」
江田「……淳久は間違いなく僕の孫だな。これと思った仕事はとことん
やる。……分かった。お前が決めたんならもうじいちゃんは何も言わない」
さくら「……からだ、壊さないでね。あっくん」
淳久「大丈夫だよ。それより……あ!」
敦也「お! 産声」
江田「おお、無事生まれたか」
さくら「ママ!」
○ 新生児室前廊下
敦也「あ、見つけた。あそこあそこ」
江田「ここは完全無菌を徹底してるから、しばらくは抱けないんだなあ」
さくら「早く抱っこしたいよ。でも、かわいいなあ。くしゃくしゃの顔してるけど」
淳久「4000グラムだっけ、大きいよね。写真で見た僕らとすごい違う」
敦也「お前ちっこくてなあ。ヒヤヒヤしたぞ。抱くとき」
さくら「結局名前まだ決めてないんだよねえ。パパ帰ってくるまでお預け
かな」
江田「天馬君が決めるのか」
さくら「女の子の私はママがつけたから、男の子はパパがって約束」
敦也「淳久は、俺がジャンク堂にいたときに産気づいたって報せもらっ
たからつけたんだ」
淳久「……そうだったの?」
敦也「まあ、あと壬久がな、俺に似て欲しいけど全部似て欲しくない
からって、あつひさのあつの字を俺の名前から取らなかったんだ。
読みは同じにしたけど」
江田「ははは。別に敦也君に似てもいいと思うがなあ」
さくら「あっちゃんに似たら、大きな大きなクマさんみたい」
敦也「可愛いじゃないか、テディベアなら」
淳久「……お父さんはテディベアって柄じゃないよ」
さくら「4歳の時にパパにプレゼントしてもらった大きなクマさんの
ぬいぐるみは、今でも私の宝ものだよ」
敦也「ほらみろー」
淳久「だからそれはぬいぐるみであってお父さんじゃないんだってば」
敦也「ううう。ムスコに嫌われてる」
江田「嫌ってなんかいないだろう? 淳久」
淳久「……別に嫌ってなんかないよ。ただ、何ていうか。お父さん
ちょっと自制心ないとこあるからそれが丸分かりみたいな気がして」
敦也「人を体型で判断するなーーーーっ!」
さくら「そうだよう。あっくん。駄目だよう」
淳久「……ごめんなさい」
江田「まあいいじゃないか。痩せてても太ってても、敦也君は敦也君だ」
敦也「お義父さん、愛してます」
さくら「あははー、ヤオイだーー」
淳久「さくらちゃんさくらちゃん……」
○ 神久保家・居間
江田「結局壬久はまだしばらく、駒子につくんだね?」
敦也「そうみたいです。しばらくは俺が主夫をつとめます。お義父さん
何か食べたいのあります?」
江田「そうだなあ。緊張が解けてお腹が空いてきた。お茶漬けあるかい」
敦也「新巻鮭のカットしたのがあるんで、鮭茶漬けしますよ」
江田「おお、いいなあ」
敦也「淳久もさくらちゃんも寝ちゃってるから、ついでに焼酎なんかも
どうですか?」
江田「そうだな、祝い酒といこうか」
敦也「はい!」
江田M「三人目の孫は、数日後天馬君によって雄也(ゆうや)と名付け
られた。……なあ、壬子さん。こうやって僕らの血が受け継がれていく
のは何ものにも変え難い喜びがあるなあ。いつかまた壬子さんに会え
る時、たくさんの思い出話を肴に酒でも飲もう。昔の、あの日のように」
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